修羅場 1
修羅場
私が綾瀬さんと付き合ったのは 彼がまめにお店に来てくれて
そして 私に対しての接し方と他の女の子への接し方を
明らかに差をつけてくれたことで。
来るたび来るたび 私と一緒に帰りたがっていたのだけど
私はそれが 遊び だと感づいていたので
そうそう 一緒に帰ったこともなく
裏口からそっと出て行ったり、ママと用事があるとか言ってみたり
のらりくらりとはぐらかしていたのは事実でした。
何故 そんな私が綾瀬さんとこんな仲になってしまったかというと
あんまりしつこく 誘うから 一回くらい 一緒にご飯食べてもいいかなと
軽く考えて 焼き肉を食べに行ったんだけど
別になんか 面白いわけでもなく おいしいわけでもなくて
さて 家に帰ろうかなと 思ったところ
綾瀬さんが ちょっと酔った感じで
『ホテル行かない?』と誘ってきたので
やっぱり こいつ それが目当てか と思い、
ここで 演技が必要だなと 私特有の勘が働いて。
私 そういうことしたら 綾瀬さんを忘れられなくなっちゃうって
上目遣いで 彼の胸にもたれちゃったんです。
そしたら すっごい彼 動揺しちゃって
見てておかしくなるくらい 心臓もドキドキ聞こえてきて
どう態度に出るかなって観察してたら
『じゃ、電話番号だけでもいいから教えて』っていうので
私は 『今 携帯修理に出して(嘘) 手元にないのよね』って言ったら
彼が 真剣に 本当真剣に
『じゃ、携帯戻ったら 僕に電話して』って
胸の内ポケットから 手帳とペンを出して
さらさらって 書いて びりって破って
私にくれたんです。
その仕草がなんとなく 決まっていて。
なんていうか スマートっていうか。
で 翌週 嫌なお客について ボトルあけなくちゃならなくなって
私はあまり飲めないんだけど のんでいるフリしても
ちょっとずつ なんとなく 酔っ払ってくるって言うかな。
それで 少し酔ったところでボトルもあいて
お客も新規入れてくれて、ヤレヤレと思ったら
何となく 綾瀬さんの声が聞きたくなって
彼の携帯に お店から電話したんです。
そしたら 留守録で。
しょうがないから 『なんとなく電話してみました』って録音しておいたの。
そしたら なんと次の日 お店に来てくれちゃって。
私を指名で呼んでくれたのはいいんだけど
『昨日 どうしたの?』って優しく聞いてくれたの。
それで なんとなくね 声が聞きたかったのよって
ハーパーの水割り作りながら 答えたんだけど
それで 『携帯の修理終わったの?』ってすっかり騙されたままで
しょうがないなあ 可愛いなあって 思って
私 『携帯電話番号はこれよ』って 私の名刺の裏に書いて渡してあげたの。
で また翌週の真ん中くらいに 綾瀬さんから連絡があって
土曜日 忘年会の帰りだから その後 葛西に寄ろうかって。
じゃ 一緒に夕ご飯食べない?って提案したら
いいねっていうから。
彼は彼で 忘年会の後、普通なら2次会行くのに
上司から 綾瀬 次行くぞって 言われても
いや 僕 これから用事がありますからって
妙ににやけて(これは後から彼の後輩から聞いた話)
そそくさと チケット買って人形町の地下鉄の階段
降りちゃったんだって。
それで 私たち 西葛西のイタリアンに入って
綾瀬さんは 忘年会であまり食べなかったって言ってたから
軽く オードブルとワイン飲んで。
いつもワインなんて 飲めないんだけど
今日はちょっといいかなって 飲んでしまったら
これがまたおいしいワインで 結構行けてしまった 笑。
会計済ませて 綾瀬さんがこれからどうする?って聞くから
もう 遅いし 今日はお互いに帰りましょうって言ったら
じゃ 送るよっていうので
私 自転車だから ここでいいのよって言ったら
僕が 前に乗るよって。
冬で寒くて フラノのコートなのに
そのばりばり営業マンサラリーマンスタイルで自転車乗るって
なんだか すっごいバランスが悪かったんだけど
私にしてみたら 新鮮で 笑いながら
ありがとう って言って
私は 後部に乗って
綾瀬さんの背中に 頭をもたせて 彼のわき腹から前に
腕を組んで なんだか しあわせだなあ って思っちゃったの。
そしたら 綾瀬さん
『美希ちゃん ホテル行かない?』ってまたいうから
『綾瀬さんって めげないね』って笑ったら
結構真剣で でも 黙ってしまって。
私 彼とは遊びのつもりだったから
まあ 一回くらいいいか と軽いつもりで
『いいよ』っていっちゃったの。
返って いいよって言われて 綾瀬さんが驚いていて
本当にいいの?っていうから 彼の背中越しに
うん って うなずいてあげたの。
私たちが乗った赤い自転車は 信号を右折して
ホテルまで 着いた。
音もなく静かに自動ドアは開き、
闇に浮かんだパネルの中から自分たちの好みの部屋を選び
無口に私たちは エレベーターに乗り
廊下の小さなライトに導かれて 自分たちの選んだ部屋に入ったの。
青い部屋だったなと思う。
それから お風呂に入ったんだけど
綾瀬さん どうしていいか わかんなくて
そりゃそうだよね。駄目でもともと って感じで
私を口説いて そんな女が 軽くいいよって言ったら
なんか 夢でもみてるみたいって 彼がいうから
夢じゃないわよって
長い長いキス。ブレスしながら 向きを変えて
甘くつまんだり ちょっと吸ったり 舌を絡めて交差したり。
私が上になって 彼にキスしてあげたの。
(続く)
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