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心の裏側

困ったわ。今日 夫が一日早く出張から帰ってくるの。響子 うまく私のアリバイ作ってくれないかしら?
また 沙希から電話がきた。
最初の沙希からの頼みはもっと低姿勢で それほど頼むならやってあげてもいいなと
ちょっとしたゲームのつもりで承諾したが、最近では軽く依頼する沙希に対して
響子はうんざりした気持ちになっていた。
佐川響子と高山沙希は クラスは違うが高校の同級生であった。
高校3年間違うクラスですごしたが 偶然にも大学のとき、同じスキーサークルに所属し
高校のときは 口もきいたことがなかったが大学に入ってから親しくするようになった。
沙希は高校当時から他校の男子生徒からも交際を申し込まれたほどの美貌であった。
彼女の父は 大病院の院長で小さいころから何不自由なく育った。
現在 沙希は夫と 子供の4人暮らしで週に3回ほど通ってくる家政婦もいる。
夫は一部上場企業の取締役で 彼女はとても裕福にくらしている。
一方 響子は普通のサラリーマンの家庭に育ち
成績は中の上ではあったが 別にこれといって目立っていたわけではなかった。
お互い既に32歳になり、少しずつ若さが薄れかけているが
お金持ちに生まれお嬢様として磨かれ そしてさらにまた
財力のある夫のおかげで 沙希のなにもかも上品であった。
それは金銭的にゆとりのない響子からは羨ましい限りである。
『ねえ、響子はなにかマッサージとか美容についてやっている?』
沙希は 響子の家庭を察するわけでもなく、何気なく言ったが
響子にはこの言葉が癇に障った。
高校のときは 彼女の美貌にあこがれていたが
こうやって目の当たりに彼女と接するにつけ 彼女の一挙一動が
ねたましくなっていった。
響子は 3年前に夫と離婚し 女手ひとつで子供を一人育てている。
高校のときから、沙希のことを影ながら知っていた響子は 
沙希が羨ましく 憧れでさえあった。
沙希は 大学在学中から 知人の紹介で現在の夫と出会い
年齢こそ12歳と一回りも違っていたが熱烈な交際を経て
21歳という若さで学生結婚した。
響子は 大学のときから付き合っていた男性と6年付き合い 子供ができてしまったので
結婚したが、彼の浪費癖と酒癖に家庭はいつも火の車であり、夫に愛人ができたとわかったとき
もともと 夫との結婚に嫌気がさしていたので、彼女はあっさりと離婚を切り出していた。
かねてから 貯金などなく、金銭的にだらしない夫は養育費を出すこともできず
彼女は 昼は子供を保育園に預け、証券会社で働き、夜は銀座のホステスとして
身を粉にしながら 働いた。
離婚のときは 貯金などなかったが、ここ3年でゆとりもでき、ホステスとして稼いだお金で
小さいながらも雑貨屋を営むこともできた。
銀座で働いていたときに知り合った桂木から、店を始めるとき500万をもらった。
桂木は 大手建設会社の役員で、次期社長とうわさされている人物であった。
他の客とは違い、なぜか 響子とデートしても肉体的に迫ることはしなかった。
沙希から
『ねえ 響子 今夜優哉と久しぶりに会えるのよ。響子の家に行っているってことにしてくれない?』
さらに甘えた口調で悪びれもしない。
今月にはいって3回目というのに、どこが久しぶりなのだろう。
響子は少し沙希を困らせてやりたくなった。
『沙希 ごめんなさい。今日はどうしてもだめなのよ。昨日のうちに言ってくれたらよかったのに』
『そんなこと言わないで。お願いなの。』ちょっとした泣き声まで聞こえてくる。
『いや ほんとうにごめん。』と言って 響子は無理やり電話を切った。
その夜遅く、高岡幸一から電話があった。沙希の夫である。
夕方の電話で 響子は沙希の依頼をきっぱり断っているから
まさか電話がかかってくるとは思わなかった。
いったい何事だろうと思った。
幸一は普段は妻が大変世話になっていると告げた後、
沙希を出してくれという。
『沙希 今日はここにはいませんよ。なにか?』とたずねたあと
『妻は 響子さんの家に同窓会の件で打合せに行くと言ったのです。』
と幸一は続けた。
いったいなにがあったのですか?と興味本位で沙希は尋ねた。
実は息子が入院しまして・・・どうも具合が悪くて・・・と歯切れが悪い。
『うちにはいないですが 心あたりを探してみます』と言って
響子は電話を切った。
普段 会社では堂々としているだろう幸一がおろおろしてるのが目に浮かぶようだった。
世の中は不公平だ。こうやって同じように生まれて生きているのに
沙希ほど裕福で恵まれていて おまけに愛人までいておかしくないか。
そして 私は いつも沙希の尻拭いばかりしている。
老いが忍び寄っている自分の顔をまじまじと眺めた。
沙希が 裕也とあっているとき、携帯を切っているのを響子は知っている。
念のため 沙希の携帯にメールを入れておいた。
明日の朝 これを見た沙希はどう思うだろうか。
想像しただけで わくわくした。
今まで一度もつらいことなど味わったことがない沙希の顔が歪む。
まさか 響子がこんな悪巧みをしているなんて沙希はこれっぽっちも思っていないのだ。
万が一 沙希から深夜のうちに電話があると困るので
響子もまた 携帯をOffにして寝てしまった。
翌朝土曜日、朝早くから電話が鳴った。携帯はOffにしてあったので、仕方ない、家の電話をとる。
もしもし。。。
と 響子が言った。
案の定沙希からだ。
響子、どうして口裏合わせてくれなかったのよ。と半ば興奮気味である。
なんかあったの?
響子はしらばくれた。
昨日 夫から電話があったんでしょう?
うん それは 沙希の携帯にメールでいれておいたよ。
そうじゃなくて。。
私は沙希に断ったじゃない。無理だって。それなのに、私の名前を使ったの?
あきれたと言うように 響子は言った。
だって 今まで何もなかったから今度も大丈夫だろうって思ったのよ。
で どうだったの?
私が外泊続けたからって 夫ったら 興信所で私のことずっと調べていたのよ。
と 沙希は泣き出した。
その調査 昨日が4回目だったんだと言う。
じゃ 私が沙希のことかばったって ばれていたんじゃない?
続けていう響子に 沙希は何も言わなかった。
それからしばらくして沙希からはなんの連絡もなく、響子は穏やかに過ごしていった。
ある日 桂木から電話があり 食事に行かないかと誘われた。
何の刺激もない生活を送っていた響子は 飛び上がらんばかりに喜びを表し、
約束の場所まで出かけた。
そして 桂木は 実は友達とねえ 新宿の怪しい風俗の店にいったんだけどねえ
そこに新しい女性がいてねえ。それがまたすごい美人なんだよ。
へえ 怪しい店ってどういうのなの?と 響子はたずねた。
それはさあ なんていうか、いわゆるソープだな と くくっと夕べを思い出すかのように
桂木は笑った。
いやらしいわねえ と 響子はストローを加えながら笑いをあわせた。
興味があったから指名して、いろいろ聞いたらねえ、君と同じ大学で。
世の中狭いわねえといい、
これが彼女の写真なんだ と 少し自慢気に桂木は写メールを見せた。
そこには 沙希の姿が映っていた。化粧も濃く、ドレスも派手だが
それでも上品さを失っていない沙希は 他の女性たちよりも目立っていた。
知っているか?
知らないわ。
同じ大学だっていうから 知っているかと思ったけど。
同じ大学だからって 知っているとも限らないでしょう?で 彼女がどうしたっていうの?
急にむっとしたら おかしがられるから ポーカーフェイスを気取って
響子は続けた。
でも 大体そういう店で ほんとうのことなんていわないし、写メなんて
写させないんじゃないの?と響子が言ったら
いやさ 僕も写真なんて撮ってもいいのかなって 少し腰引き気味でいったんだけど
指名が増えればいいからって 言ってたよ。
お友達にも紹介してくださいねって。
変な女ねえ。と響子が続けると
あういう商売も今は低迷期だからね、給料も安いらしいよ。
ところでさあ と響子は話題をかえた。

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