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止まらぬ妄想 2

僕の課が とても忙しくなってきたので
部長が新しく派遣を雇おうと提案してきた。だから また僕は面接をして
新しい女性に来てもらうようにお願いした。

その彼女の歓迎会が昨日あった。
幹事は 僕の部下で高橋君というのだが彼はまだ25歳で
入社3年目 まだ若く僕の言うことをマジメに受け止めてくれる
とても いい社員だ。

高橋君は 女性たちに歓迎会のことを伝えた。
僕は高橋君にみんなの反応はどうだったかと
たずねたら、みんな来ますと言ってましたと歯切れのいい返事が返ってきた。
みんな来ますというから オオタカさんも来るのだろう。
当日 オオタカさんは千葉支社にお使いがあって出かけていて
現場へ直行するといっていたと高橋君が僕に連絡した。
高橋君は 仕事の絡みでオオタカさんと話をすることが多い。
僕は 高橋君に嫉妬するくらいうらやましいと思う。
僕もオオタカさんと一緒に仕事がしたいが 課長職なので
仕事はできない。単に指示をあたえることだけだ。

僕は 歓迎会の前日、妻に今日は歓迎会だから遅くなるよと伝えておいた。
そういえば 妻は夕食も作らないし、早く寝る。
結婚10年目ともなれば 新婚の時のようにいつまでも待っていることもない。
お互い自分の健康が第一なのだ。

僕は 歓迎会の日 朝からなんとなく気分がうきうきしていた。
オオタカさんと夜会うのは オオタカさんの歓迎会以来だからだ。
オオタカさんが酔うと 頬が赤くなって少しセクシーだ。
高橋君が座席表を作って 僕に見せる。
夜は こんな感じで並べばいいですか?
オオタカさんとは席が遠いが どうにか移動して近くに座ることもできるだろう。
なぜなら 僕にはオオタカさんが不思議な人にみえて仕方がないのだ。

離婚して 子供がいるということを以前聞いたけど
それなのに どうしてあれだけ美しくいられるのだろう。
どうして あれだけ若くいられるのか。
以前 彼女の歓迎会で寄った勢いで オオタカさんは子供がいるようにみえないですねって 
事務の女性が言っていたけど 僕も強烈にそう思う。
歓迎会で聴いた話だけど 子供を一人で育てているそうだ。
残業があっても きちんとこなしていくし、弱音は絶対はかない。

僕の妻と比べてみても そう年は変わらないのに
雰囲気とか 物腰がまったく違う。
これはどういうところから来ているのだろうか。

さて 僕は歓迎会でもオオタカさんが気になって
遠くからみていたけど、オオタカさんが 新しく勤め始めた新座さんに
挨拶をしにきた。当然僕のそばにも来た。
僕は普段こうみえて シャイなところがあるので
酔っていないと オオタカさんに用もないのに話しかけることはできない。
新座さんは 先週結婚したばかりといって、少しお惚気の入った話を
オオタカさんにしていた。

僕は 話の流れでオオタカさんに
オオタカさんは 結婚しないの?と聞いてみた。
オオタカさんは くすりと笑って
どうして 男性は同じことを尋ねるのでしょうね。
と やんわりとかわされてしまった。
オオタカさんは まるで柳に風のように
あまりはっきりと答えてくれない。本当はどういう人なのか
僕は毎日気になっているのだ。

2件目みんな行くというから オオタカさんも来るのかなと
楽しみにしていたのだけど 高橋君に尋ねたら
子供が待っているから帰りますと 帰ってしまったようだ。
僕は少しがっかりした。
少し酔わせれば オオタカさんの本音が聞けるかもと思ったのだけど
そう簡単にはいかなそうだ。

2件目は 参加した女性が少なかったせいもありいつもの男たちとの
飲み会のようになって つまらなくなった僕は
11時に先に帰って 柚子の店に行き また彼女とホテルに行ってしまった。
僕は 彼女を抱きながら オオタカさんとえっちしている気分にいつもなるのだけど
名前は間違えないように 気をつけなければならないのが少し苦痛だったりする。

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止まらぬ妄想

僕は結婚して10年になる。
子供は2人いる。
妻とは社内恋愛で 結婚した。
僕が勤めている会社は一流企業で いわゆるエリートで しかも僕は課長だ。
おととし、東京の郊外に家を買った。

今のところ 安定して不平はないのに
なぜか 彼女に惹かれた。
彼女は 先週僕の働いている会社へ派遣社員として来た。
5人面接をしたのだけど 僕の好みで彼女だけを採用してしまった。
これは他の社員にはいえない。彼女を選んだのは
仕事ができるから という理由だったけど
本当の理由は僕の好みだからということなんだ。

彼女のそばに行くと どきどきする。
まるで少年みたいだと僕は思う。
彼女は若くはない。僕は彼女の年齢を知っているけど
見た目 30歳前半にしか見えない。遠くから見たら
20代後半にしか見えない。
しかし 話をすれば 僕と同じ世代だ。

家庭も仕事もそれなりに安泰だと 他に刺激を求めるのが
男なのかもしれないと最近思う。

とはいえ いくら彼女が気になったとしても
僕は結婚しているし、彼女は派遣社員だし
食事に行くわけにもいかず、普通に廊下で話すのもおかしいし
なにか理由をつけて 話しかけはするけど
でも 話が終わったらすべてストップだ。

こういった悶々とした毎日を送っていたある日
得意先の接待があった。
食事会はわが社がもったけど 話が盛り上がって
もう一件行きましょうということになった。
もう一件は 得意先が持つという。

僕は そのもう一件の店に行って
となりについた女の子見て驚いた。
彼女だと思った。
それくらい似ていた。心臓がどきどきした。
今までちょうどよいくらい酔っていたのに
酔いが醒めそうだった。
双子じゃないかと思うくらい似ていた。
話し方もそっくりだ。

でも その女の子は 僕を見て僕と話して
なんら驚いた様子はない。
初めましてと言って席に着き
いただきますといってビールを飲む。
そして僕の話を面白おかしく聞いて 笑っている。
店のマニュアルのように カラオケでもいかがですかと
歌の本を持ってくる。

僕は彼女が気になって気になって
歌どころではなかった。

ジャックダニエルの水割りを飲んで 結構気が大きくなってきて
初めて会ったというのに 僕は彼女に尋ねた。
『彼氏いるの?』
『いないですよ』彼女は笑って答えた。
『どこに住んでいるの?』
『石神井です』
『練馬か』『そうです。ここからはちょっと遠いのですが』
そういえば 会社のオオタカさんは 浦安だと言ってた。本人じゃないと
当たり前のことを当たり前に思ったのだけど
アルコールが前頭葉を侵食し始めて
当たり前のことがそうでないような気がしていた。

彼女の名前は ゆずと書いて柚子(ゆうこ)と言ったが、
店では ゆずと呼ばれているという。
とにかく 僕は彼女にオオタカさんの影が重なって
オオタカさんと恋愛ができないから 彼女を好きになってしまった。

男は勝手な生き物だ。
A子が駄目ならB子でもいい。いくら大好きなA子が振り向いてくれないなら
2番目に好きなB子がよくなる。
今日 2番目でも明日は1番になってしまう。そして付き合っているうちに
B子がベストになってしまう。

しかし 僕には妻と子供がいる。
今は 腕の中に柚子を抱きながら、勝手な僕は勝手に暴走してしまった。

3回 みんなに内緒で柚子がいる店に通った。
3回目 僕は彼女を店が終わってから すし屋に誘った。
なんだか 遊びなれたうちの部長みたいだけど
どうやってそういう店の女性をくどいていいかわからないから
部長の真似をするしかなかったのは 真実だ。

柚子だか オオタカさんだか時々区別がつかなくなるくらい
似ていた。本当はオオタカさんがこの店にアルバイトに来て
柚子だと名乗っているのじゃないかと妄想したりもした。

だから 会社にいて オオタカさんに用事があって
彼女と話すとき 僕は異常に興奮してしまうのだ。
オオタカさんと話すと 柚子とのえっちなことを想像してしまう。
オオタカさんの胸やおしりを さりげなく見る。
オオタカさんを後ろから抱きしめてみたいという妄想が膨らむ。
そんなことを考えると エンドレスだ。
仕方がないので トイレの個室に入って
僕のえっちな想像を一人で処理するしかない。
そうしないと 止まらないのだ。特にゆうべ柚子にあった日には
彼女との行為がすごすぎて それを引きずってしまうのだ。

本当は彼女と一緒に朝まで過ごしたいけど
妻にばれたら 柚子と恋愛することも駄目になってしまう。
朝までいて 朝ももう一度したいくらい柚子との恋愛は最高だけど
朝までいたら 会社に行きたくなくなってしまう。
とりあえず 朝の前に柚子と別れて 会社にいけば
オオタカさんがいる。
オオタカさんは 冷静だ。僕の指示を事務的に受け止める。
僕はオオタカさんと話すと どうも左の口があがってしまって
にやけそうな顔になるのが こわい。

結婚して他で恋愛しているなんて
口が裂けてもいえないけど、言って自慢したくなるときもある。
へえ 課長ってもてるんですねとか 言われてみたい。

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心の裏側

困ったわ。今日 夫が一日早く出張から帰ってくるの。響子 うまく私のアリバイ作ってくれないかしら?
また 沙希から電話がきた。
最初の沙希からの頼みはもっと低姿勢で それほど頼むならやってあげてもいいなと
ちょっとしたゲームのつもりで承諾したが、最近では軽く依頼する沙希に対して
響子はうんざりした気持ちになっていた。
佐川響子と高山沙希は クラスは違うが高校の同級生であった。
高校3年間違うクラスですごしたが 偶然にも大学のとき、同じスキーサークルに所属し
高校のときは 口もきいたことがなかったが大学に入ってから親しくするようになった。
沙希は高校当時から他校の男子生徒からも交際を申し込まれたほどの美貌であった。
彼女の父は 大病院の院長で小さいころから何不自由なく育った。
現在 沙希は夫と 子供の4人暮らしで週に3回ほど通ってくる家政婦もいる。
夫は一部上場企業の取締役で 彼女はとても裕福にくらしている。
一方 響子は普通のサラリーマンの家庭に育ち
成績は中の上ではあったが 別にこれといって目立っていたわけではなかった。
お互い既に32歳になり、少しずつ若さが薄れかけているが
お金持ちに生まれお嬢様として磨かれ そしてさらにまた
財力のある夫のおかげで 沙希のなにもかも上品であった。
それは金銭的にゆとりのない響子からは羨ましい限りである。
『ねえ、響子はなにかマッサージとか美容についてやっている?』
沙希は 響子の家庭を察するわけでもなく、何気なく言ったが
響子にはこの言葉が癇に障った。
高校のときは 彼女の美貌にあこがれていたが
こうやって目の当たりに彼女と接するにつけ 彼女の一挙一動が
ねたましくなっていった。
響子は 3年前に夫と離婚し 女手ひとつで子供を一人育てている。
高校のときから、沙希のことを影ながら知っていた響子は 
沙希が羨ましく 憧れでさえあった。
沙希は 大学在学中から 知人の紹介で現在の夫と出会い
年齢こそ12歳と一回りも違っていたが熱烈な交際を経て
21歳という若さで学生結婚した。
響子は 大学のときから付き合っていた男性と6年付き合い 子供ができてしまったので
結婚したが、彼の浪費癖と酒癖に家庭はいつも火の車であり、夫に愛人ができたとわかったとき
もともと 夫との結婚に嫌気がさしていたので、彼女はあっさりと離婚を切り出していた。
かねてから 貯金などなく、金銭的にだらしない夫は養育費を出すこともできず
彼女は 昼は子供を保育園に預け、証券会社で働き、夜は銀座のホステスとして
身を粉にしながら 働いた。
離婚のときは 貯金などなかったが、ここ3年でゆとりもでき、ホステスとして稼いだお金で
小さいながらも雑貨屋を営むこともできた。
銀座で働いていたときに知り合った桂木から、店を始めるとき500万をもらった。
桂木は 大手建設会社の役員で、次期社長とうわさされている人物であった。
他の客とは違い、なぜか 響子とデートしても肉体的に迫ることはしなかった。
沙希から
『ねえ 響子 今夜優哉と久しぶりに会えるのよ。響子の家に行っているってことにしてくれない?』
さらに甘えた口調で悪びれもしない。
今月にはいって3回目というのに、どこが久しぶりなのだろう。
響子は少し沙希を困らせてやりたくなった。
『沙希 ごめんなさい。今日はどうしてもだめなのよ。昨日のうちに言ってくれたらよかったのに』
『そんなこと言わないで。お願いなの。』ちょっとした泣き声まで聞こえてくる。
『いや ほんとうにごめん。』と言って 響子は無理やり電話を切った。
その夜遅く、高岡幸一から電話があった。沙希の夫である。
夕方の電話で 響子は沙希の依頼をきっぱり断っているから
まさか電話がかかってくるとは思わなかった。
いったい何事だろうと思った。
幸一は普段は妻が大変世話になっていると告げた後、
沙希を出してくれという。
『沙希 今日はここにはいませんよ。なにか?』とたずねたあと
『妻は 響子さんの家に同窓会の件で打合せに行くと言ったのです。』
と幸一は続けた。
いったいなにがあったのですか?と興味本位で沙希は尋ねた。
実は息子が入院しまして・・・どうも具合が悪くて・・・と歯切れが悪い。
『うちにはいないですが 心あたりを探してみます』と言って
響子は電話を切った。
普段 会社では堂々としているだろう幸一がおろおろしてるのが目に浮かぶようだった。
世の中は不公平だ。こうやって同じように生まれて生きているのに
沙希ほど裕福で恵まれていて おまけに愛人までいておかしくないか。
そして 私は いつも沙希の尻拭いばかりしている。
老いが忍び寄っている自分の顔をまじまじと眺めた。
沙希が 裕也とあっているとき、携帯を切っているのを響子は知っている。
念のため 沙希の携帯にメールを入れておいた。
明日の朝 これを見た沙希はどう思うだろうか。
想像しただけで わくわくした。
今まで一度もつらいことなど味わったことがない沙希の顔が歪む。
まさか 響子がこんな悪巧みをしているなんて沙希はこれっぽっちも思っていないのだ。
万が一 沙希から深夜のうちに電話があると困るので
響子もまた 携帯をOffにして寝てしまった。
翌朝土曜日、朝早くから電話が鳴った。携帯はOffにしてあったので、仕方ない、家の電話をとる。
もしもし。。。
と 響子が言った。
案の定沙希からだ。
響子、どうして口裏合わせてくれなかったのよ。と半ば興奮気味である。
なんかあったの?
響子はしらばくれた。
昨日 夫から電話があったんでしょう?
うん それは 沙希の携帯にメールでいれておいたよ。
そうじゃなくて。。
私は沙希に断ったじゃない。無理だって。それなのに、私の名前を使ったの?
あきれたと言うように 響子は言った。
だって 今まで何もなかったから今度も大丈夫だろうって思ったのよ。
で どうだったの?
私が外泊続けたからって 夫ったら 興信所で私のことずっと調べていたのよ。
と 沙希は泣き出した。
その調査 昨日が4回目だったんだと言う。
じゃ 私が沙希のことかばったって ばれていたんじゃない?
続けていう響子に 沙希は何も言わなかった。
それからしばらくして沙希からはなんの連絡もなく、響子は穏やかに過ごしていった。
ある日 桂木から電話があり 食事に行かないかと誘われた。
何の刺激もない生活を送っていた響子は 飛び上がらんばかりに喜びを表し、
約束の場所まで出かけた。
そして 桂木は 実は友達とねえ 新宿の怪しい風俗の店にいったんだけどねえ
そこに新しい女性がいてねえ。それがまたすごい美人なんだよ。
へえ 怪しい店ってどういうのなの?と 響子はたずねた。
それはさあ なんていうか、いわゆるソープだな と くくっと夕べを思い出すかのように
桂木は笑った。
いやらしいわねえ と 響子はストローを加えながら笑いをあわせた。
興味があったから指名して、いろいろ聞いたらねえ、君と同じ大学で。
世の中狭いわねえといい、
これが彼女の写真なんだ と 少し自慢気に桂木は写メールを見せた。
そこには 沙希の姿が映っていた。化粧も濃く、ドレスも派手だが
それでも上品さを失っていない沙希は 他の女性たちよりも目立っていた。
知っているか?
知らないわ。
同じ大学だっていうから 知っているかと思ったけど。
同じ大学だからって 知っているとも限らないでしょう?で 彼女がどうしたっていうの?
急にむっとしたら おかしがられるから ポーカーフェイスを気取って
響子は続けた。
でも 大体そういう店で ほんとうのことなんていわないし、写メなんて
写させないんじゃないの?と響子が言ったら
いやさ 僕も写真なんて撮ってもいいのかなって 少し腰引き気味でいったんだけど
指名が増えればいいからって 言ってたよ。
お友達にも紹介してくださいねって。
変な女ねえ。と響子が続けると
あういう商売も今は低迷期だからね、給料も安いらしいよ。
ところでさあ と響子は話題をかえた。

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もう一度会いに来て 2

遠野は一部上場建設会社営業部の部長だったが、昨年昇進して取締役になった。
彼は特にばりばりやる営業マンというわけでもなくいが
部下に対して非常に信頼される男という感じで、
香乃は 会社での遠野を見てはいないが おおよその察しはついた。
そして いつまでも子供の部分が抜けず、そういうところが
女性からもてる一種の要因だったかもしれない。
普段は寡黙で、ちゃらちゃらした男でなく、曲がったことが嫌いであった。
まったく真面目を絵に描いたような性格だが
酒がはいると、普段抑制している分、本音がつい出た。
今度のことも 多分、大阪の愛人と一緒に 酒を飲んで
妻とは決して別れようとしない遠野を責めたか、遠野が騙したのか
死ぬの別れるのともめたあと、どちらかが薬を持ち出し、
彼の半分夢の中でおきた事件としか思えなかった。

綾瀬は 以前から遠野の厭世的かつ退廃的なところを知っていたので
心中と聞かされても それほど動揺はしなかったが
もう彼と一緒に歩けないことが悲しかった。
いつかこうなるということが予感があったものの遠野が去年大阪に転勤してから
彼の仕事に対する熱意や成功を社内ニュースで聞いてはいたものの、
綾瀬が部長に昇進したと同時に連絡は少なくなっていった。
遠野と最後にあったのは、一ヶ月前の大阪出張であった。
大阪本社の廊下で偶然に遠野とすれ違ったとき、
『綾瀬、元気でやってるか』と人懐こい笑いをうかべて
『お前 離婚したんだって』と心配そうに尋ねてくれた。
綾瀬が恐縮していると、
『ま、男と女ってのは 誰にも予測つかないからな。
自分に恥ずかしくない人生を送れよ』と
笑いながら、綾瀬の肩をたたき 会議室に入っていった。
今にして思えば、あれが 遠野の遺言だったのかと思い出した。


香乃は 今までよくしてもらった分 彼を恨む気持ちもなく
苦しんで死んだかどうかがとても気になった。
あとで 生き残った女性に会いに行こうと思った。
綾瀬とわかれた後、遠野は香乃をとても心配してくれて
それまで以上に食事にいったり、買い物につきあったり
やさしくしてくれた。
一度 香乃が酔っ払って
『綾瀬さんは私のことを遊びだと言ったのよ』
と 遠野にすがったことがあった。
『おまえ、綾瀬の気持ちになったことあるか。』
香乃は 泣きはらした瞳で遠野をみあげた。
遠野はひとつふたつ咳をしたあと、
『あいつ、俺に好きなおんながいますから今後相談していいですか と真面目な顔で
きたことがあってな』
『だからって・・・』
『まあ 聞きなさい。かみさんはどうするんだと尋ねたところ、いずれけじめをつけ
るつもりだと言ってたよ』
『でも、結局はできなかったじゃないですか』
香乃は恨めしい気持ちでいっぱいだった。
『まあ、結婚離婚ってのは こちら側の言い分だけではどうしようもないことがある
からなあ。
あいつもお前に遊びだと 言うしかなかったんじゃないか』
香乃には 男側の気持ちはよくわからない。わかったのは、
自分だけではどうしようもできなかったということだけだった。

そして 綾瀬に 香乃と別れるにしてもなんにしても
きちんと誠意だけは見せろと伝えたらしいが
当の綾瀬からは なにも連絡がなく、まさに捨てられたとしか
思い様のない香乃であった。

香乃は、一度だけ綾瀬が酩酊状態でクラブ蝶に来て、
あの後、イタリアンレストランで待ち合わせしたとき
あのときが一番しあわせだったと思う。
当時、綾瀬はまだ課長でいたが中間管理職という立場で
いろいろあったのではないか。
自分がその支えになってあげたいと香乃はその頃既に思っていた。
店が終わって 息せき切ってレストランに入ったとき、
綾瀬は窓の外をぼんやりみていた。
『綾瀬さん ごめんね。待たせちゃった。』
『いや 少し酔いもさめてきたしちょうどいいよ。』
『お腹すいてない?』
『僕はもう要らない。ワインでも飲もうかな。君こそなにか食べたら?』
『じゃ、私もワインにする。』
香乃はいたずらっぽい笑いをうかべ、ボーイを呼び、赤ワインとブルーチーズを頼ん
だ。
綾瀬も香乃も酒に弱いほうではなく、ボトル2本あいてしまった。
気が付けば夜中の2時。
店もそろそろ閉店らしく、従業員が慌しく片付け始めている。
『もう出ようか』心なしか落ち着かなくなり、
綾瀬は 香乃を促した。
表に出ると思ったよりも銀座のイルミネーションが美しい。師走の風は冷たいが酔っ
た体には心地よい。
忘年会シーズンでもあり、まだ 中央通りのあちこちで、酔客で賑わっていた。

表通りにでて 車を拾おうとする綾瀬に、結構できあがってしまった香乃は酔って尋
ねた。
『綾瀬さんはどうして私を口説かないのですか?』
『だって 君は遠野さんと何か関係があるのかもと思ったし、僕には家庭があるし』
『だからあ 遠野さんは なんでもないって言ったじゃない』
『君を口説いてどうなるもんじゃないだろう』
と 綾瀬はこの辛み癖のある香乃を見つめていた。
『私、綾瀬さん 好きよ・・・』
好き!? 僕を!?
言いながら、香乃は ゆっくりと綾瀬の胸に顔を預けた。
もたれた香乃を綾瀬は戸惑いながらも、軽く引き寄せた。
香乃は 下から綾瀬を見つめる。もう二人には同じ考えしかなかった。
綾瀬は 香乃の顎をもち、そっと唇を重ねた。
どのくらい二人は抱き合っていたのか、数秒だったのか数分だったのか。
そっと香乃を離し、綾瀬は
『来週 25日あいてる?』と尋ねた。
『クリスマスね・・あけるわ。』
優しく微笑む香乃に安堵した。
そして 二人は手をつなぎ、無邪気な子供のように笑いながら
綾瀬はタクシーを拾い、香乃を送り届けて帰っていった。

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もう一度会いに来て

小説 もう一度会いに来て

香乃<かの>が遠野の訃報を聞いたのは 遠野の部下 原田からだった。
その日は 曇っていて北風が頬にささるような寒さだった。
原田から、香乃さん 通夜にこれますか?と念を押された後、
香乃は 何も考えずに了承していた。

遠野の家は大阪にあり、新大阪の駅まで原田が迎えにくると言っていた。
震える手を抑えながら、電話を切ってからも
遠野が亡くなったことがまだ信じられなかった。
窓の外には 紅葉したもみじが風に散って
木々をますます寒寒と見せていた。


遠野の元部下である綾瀬は、会社で大阪行きの支度をしていた。
黒いネクタイは随時ロッカーに置いてある。
香典袋の用意をしているときに、内線電話が鳴った。
『はい』
『綾瀬部長ですか。原田です』
『遠野取締役から頼まれていたんですが』
『なんかあったのか』
『実は 以前から 俺が死んだら必ず吉川香乃に連絡しろと言われまして』
『なんでだ』
『私もわかりかねるのですが。』
『それで 彼女には連絡したのか』
『遺言ですし、』
少しの間、原田は言葉を区切り
『香乃さん 今夜大阪に来ます。部長には前もってお知らせしておいたほうがよいか
と思いまして。』
そういいながら、大阪本社営業部のざわめきが綾瀬の耳に聞こえてきた。

綾瀬は 香乃と今夜会うのかと思うと落ち着かなくなった。
彼女とは別れて6年になる。綾瀬は殆ど忘れてしまっていた香乃を
遠い過去の引出しから 少しずつ整理するように思い出した。
綾瀬と香乃が別れた原因は遠野にあった。

香乃は6年前 銀座の高級クラブ『蝶』で№1のホステスだった。
その頃、遠野のひいきであった香乃は遠野の愛人ではないかとさえ疑われるほど
遠野と仲がよかった。
ある日、接待で遠野に付き添った綾瀬は 香乃を一目見て好きになってしまった。
遠野48歳 部長、綾瀬 39歳課長であり、香乃は29歳であった。

綾瀬も接待で使えなくもない高級クラブに 得意先を案内し
香乃を指名でつかせた。
そのとき 初めて遠野抜きで香乃と話ができた綾瀬は、香乃から
遠野のことを聞くことができた。
『遠野部長とはどういう関係なの?』
少しアルコールが入り、気が大きくなった綾瀬は、香乃に質問した。
香乃は大きな潤んだ瞳で驚き、まっすぐに綾瀬を見た。
『いや、遠野部長の彼女だったりしたらまずいかなと思って』と
自分の心を見透かされそうな気がして 少し恥ずかしくなり
綾瀬は得意先が化粧室に行っている最中に早口で伝えた。

『遠野さんとは なんでもないのです。彼には大阪に奥さんもいらっしゃるし』
『でも 遠野部長はあれでなかなかプレイボーイなところがあって』
『あの方はおもてになるわ。でも 銀座では彼の大事な方が別にいらっしゃるようで
す』
『それ 本当の話?』
『さあ?どうなんでしょう・・・』と 軽く微笑んで
彼女はトイレから戻った客にお絞りを渡す。このままでは香乃は
得意先と話し込んでしまうことになりそうだったから
綾瀬は得意先には別の女性をつけて 綾瀬は香乃と話をした。

『綾瀬さんも奥さんいらっしゃるでしょ?』
ビールを飲んでほんのり酔った香乃は綾瀬に尋ねた。
『妻か・・・』
香乃は 綾瀬のグラスにブランデーを足しながら
マドラーでかき混ぜる。
『私 変なこときいちゃった?』
おどけて 綾瀬の瞳を覗き込み 首をかしげる仕草がなんとも言えず可愛らしい。

『今 僕 別居中なの。』
『それって本当ですか?』
『うそ』
なあんだと笑った香乃の後ろにボーイがひざまずき
指名が入りました と呼びにきてしまった。
香乃は、ご馳走様でしたと 上品に挨拶し軽やかに歩いて
他の席へ移動した。

他のホステスが香乃の代わりにテーブルについたが
どうも香乃が気になって仕方がない綾瀬は、心持ち面白くなく
得意先の家が銀座から遠いことを理由に店を出た。

そのとき、綾瀬は香乃の連絡先も携帯番号さえも聞くのを忘れ
うかつだった自分に反省したが、手帳を見て来週 ボーナスが出ることを
思い出し、そのときは自分の小遣いから捻出して香乃に会いにくるしかないか
と思案した。

遠野の通夜のため、香乃は夕方16時に新幹線に乗った。もしかしたら 綾瀬に会うこ
とを予感して
美容院に行き、喪服を着付けてもらった。
彼女の喪服姿はどの着飾ったどの女性よりも官能的だった。
八重洲を歩く彼女に男たちはぶしつけな視線を投げていた。
香乃は 遠野の気持ちがわかっていた。
もう一度 綾瀬とやり直せという彼の遺言。

6年前 綾瀬は妻とまだ別れられずにずるずると別居生活を続けていた。
綾瀬も妻もすでにお互いに愛情がなく 綾瀬が香乃と出会う前にすでに
家庭は破綻していた。
別れるきっかけがなかったといえば それまでだが
特にこれといった理由もなく 離婚を切り出すのは気が進まなかった。
そういった状況のなかで 香乃とあってしまった綾瀬は
香乃に本気になる自分を予感していた。

香乃は綾瀬の長身で優しい雰囲気にゆっくり気持ちが傾いていった。
綾瀬は紳士であり、決して香乃を無理やり誘うこともなく
静かに店にきては飲み、時々面白い話をしたり、ゲームをしたり
そして、時間になると帰っていった。
香乃のほうが少しじれていたくらいであった。

街じゅうがクリスマスに模様替えをし、街路樹にライトがつき
師走の声が聞こえ始めた ある夜 珍しく綾瀬が酔って店にきたとき、時間も遅くす
でに閉店まで1時間となっていた。
香乃は指名が多すぎて綾瀬の席までまわることができず、
あらかじめ ボーイがその旨綾瀬に説明すると
綾瀬は頷き、店を出ようとした。綾瀬の背中が妙に寂しく映った。

そのとき、香乃は とっさに綾瀬を追いかけ、自分の携帯番号を渡していた。
『綾瀬さん どうかしたの?こんなに酔っちゃって』
『まあ 僕もいろいろあるからね』
『まっすぐ家に帰るの?』
『もう帰らないとまずいよなあ』
コートの襟をたて、北風から体を守るように、香乃に尋ねた。
『妻がいる男は駄目ですか。』
いっとき、二人の視線が絡み合ったが、香乃は
その質問には答えず、店から歩いて3分の通りの並びにある
レストランを指差し、
『綾瀬さん まだ時間大丈夫なら そこのイタリアンで待っていてくれないかなあ』
『これるのか』
『だって 今日は金曜日でしょう?明日お休みじゃない?』
まあ そうだなと 約束ができた綾瀬は現金なもので
急に笑顔になり、イタリアンで待っているよと手を振って歩いていった。



新幹線が京都を出た後、原田から携帯にメールが入った。
新大阪駅からはタクシーでいくことと、今夜の宿泊先の件も入っていた。
原田は遠野の忠実な部下で、香乃が銀座で働いていた頃からの知り合いである。
原田に遠野が何で亡くなったか聞かないとならない。
訃報の連絡では 遠野が亡くなったので 大阪にこれるかどうかしか尋ねられなかっ
た。
一体 あの人はなんで死んだの。
日が短くなり 冬の夕闇は冷たい。こんな日にお通夜だなんて状況整いすぎだと
香乃は思った。

綾瀬が来るというけど、一体離婚したのかどうかその辺も気になるところだ。
あんなに散々もめて 結局妻の元に帰ったことを思い出し、早々にホテルに戻ろうと
思っていた。

新大阪駅に着き、バックをもちエスカレーターを下る。突風が吹いてくる。
東京とは違う 大阪の雰囲気が香乃は好きだった。
しかし、今日は好きな饂飩もお好み焼きも食べている場合ではない。
遠野の顔をみるまでは 亡くなったことさえも信じられない。
原田が律儀そうにお辞儀をして 近づいてきた。
『こんばんわ 原田さん』
『遠いところを香乃さん お久しぶりです』
原田は今38歳になっていた。白髪も少々目立ち始め
6年の歳月が重く感じる。
『私はまだ遠野さんが亡くなったのが信じられないの。死因はなんなの。』
『言いにくいのですが、心中なんです』
しんじゅう・・・すぐに漢字に変換できなかった。しんじゅう シンジュウ 心中?
『自分で死んだの。』

原田はタクシー乗り場に案内して 運転手にひとことふたこと言い、香乃の荷物をト
ランクに入れた。
遠野と心中がうまく繋ぎあわない。
香乃は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
『お通夜は取締役の家です』
『心中した相手の方は』
『それが相手の方は死ねずに。奥様はお倒れになり、喪主はご長男です。』
一体全体 どうやったらそういう心中などという大それたことができるのだろう。
『亡くなったのは 今朝の4時らしいです』
今朝の4時、そういえば3時50分に携帯が鳴っていた。それも非通知で。
あれは遠野だったのだろうか。
非通知ではこちらからかけることもできず、そのうちまた同じ人からかかってくるだ
ろうと軽く考えていた。
『発見者は心中しようとした相手で』
『二人でお酒を飲みながら薬を飲んだのですが、取締役の具合が突然悪くなり、心臓
にきたようで』(続く)

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